遠ざかっていく

 映画「第3の男」の終わり近く、ヒロイン役のアリダ・ヴァりが、主人公役のジョセフ・コットンをあとに、並木道を、歩み去って行くシーンがある。
ヒロインは、主人公に見送られながら、ゆっくりと、遠ざかっていった。

習い事の講師を続けてきたので、ロマンチックな別れとは縁遠い別離をいくつも経験した。
捨て台詞を吐いて辞めていく人もいれば、上手に理由を作って去っていく人もあり、本当に、やむを得ない事情で離れていく人もいた。

習い事の生徒さんが辞めていくのは、辛いものだが、それ以上に辛いのは、むろん、親しい人々との永遠の別れだ。

ここ数年、私にとってかけがえのない人たちが、何人もこの地上から去って行った。

親友、両親、それから、私を、実の娘のように可愛がってくださった、隣家の叔母様、そして、私の才能と、ユニークさを認めて、見守ってくださった方・・・etc.

残された私は、これからしばらくは、地上にとどまるだろう。
そして、やがて、私も去って行く。
遠ざかっていく私の後姿を見送りながら、何かを思ってくれる人が、はたしているだろうか。