あるレイニー・シーズン

 今日は、6月1日、梅雨の始まりかな、曇っています。

もう、ふた昔になるでしょうか、ある年の6月、朗読教室を始めて間もない私に、個人教授の依頼が来ました。

中央線の〇〇〇駅の近くにある、ピアノの練習に使われている古い家の一部屋を借りて、朗読を指導してほしい、とのお話でした。会場は、彼女が借りるのです。

朗読の発表会で、司会を頼まれたので、そのために、短期間で、ナレーションが、うまく読めるようになりたい、とのご希望です。

私は、彼女の癖を取り除いて、誰にも聞きやすい、素直なナレーションになるように、との方針で指導をしました。

個人教授第一号の生徒さんでしたので、相場よりかなり安い指導料にしました。

悪いと思われたのでしょう、彼女は、指導が終わると、よくお茶や食事をごちそうしてくれました。

最後には、彼女がよく行くというスナックにまで連れて行ってくれました。

その当時は、カラオケが趣味の一つでしたので、私も楽しく歌いました。

でも、その帰りに彼女は、「このお店には、もう来ない方がいいですよ」といいました。

路地の中にある小さいお店でしたが、彼女が、どうしてそういったのかは分かりません。そのお店には、その後行ったことはありません。

数回の楽しい授業の後、その方と、またお会いしたことはありません。

この個人授業は、その方の都合で、私のある教室が終わったあとしばらくしてからの時間に設定されましたので、少し、時間をつぶす必要がありました。

そのため、授業の前に、よく、駅前の古書店の棚をながめたものです。

そこで、英国のミステリが好きな私は、ある翻訳の本格ミステリを見つけました。

単行本でしたが、古書なので、かなり安くなっていました。

英国のミステリが好きな私は、しばらく考えてから、買うことにしました。

家に帰ってから読んでいると、本の間に挟んであった、出版社からのお知らせの栞を見つけました。

その栞には、あるミステリファンのグループのことが書いてありました。

まだ翻訳されていない、いろいろな国のミステリを紹介する同人誌を発行していて、多くの同人がいるとのことです。

個人教授を始めたばかりの私は、新しいことを始めるうれしさもあり、便りを出して、同人になりました。

すごい方たちばかりで、私なんかは下っ端でしたが、ドイツ語だのイタリア語だの、とても読めない国の作品の紹介なども楽しみました。

例会にも、二三度参加しました。

何年か後に、年会費のお知らせが来なくなり、間もなく、会長が亡くなられたことを知りました。

梅雨のシーズンの二つの出逢い・・・6月が巡りくると、思い出します。