「樽」を読みながら

ジャズのBGM、柔らかな照明と窓からの光、食器の触れ合う音、ほかのお客様たちの話し声。
行きつけの喫茶店のソファにもたれてF・W・クロフツの「樽」を読む。
二十世紀の初め。登場人物たちは、皆、丁寧な言葉を交わしあう。
英仏間にわたる事件の捜査。移動は船と列車を使って行われる。
ファックスもコピーもない。もちろん、コンピューターもまだない。
ゆっくりと進む捜査。ゆったりと流れる時間。
師走の昼下がり。私に与えられた恩寵のようなひと時。