モモの思い出 その1 お助けおばさん

 我が家の愛犬、柴犬のモモは、1月に、16歳と3か月で旅立ちました。優しく素直な性格でしたから、ファンが多く、大勢の方々が、お参りに来られたり、お花を送ってくださったりしました。やがて、我が家の庭に眠ることになるでしょう。
モモが家にやってきた当時のことを思い出します。我が家は二所帯同居で庭つづきです。隣は、勤めていたり、学生だったりして、留守をすることが多く、子犬のモモは、よくお庭に出されていました。庭の立ち木に、つないであったりもしました。そのころ私は、仕事がない日には、2階の私の部屋で、仕事の準備をしていました。ある時、モモが、キュンキュン泣きますので、心配になって庭を見下ろしますと、なんと、つながれている木に、鎖が巻き付いてしまい、身動きが取れなくなっているのです。私は、すぐ階下へ降りて行き、助け出してやりました。
また、ある日は、ケージに入れられて庭に出されていたのですが、雨が降りだして来て、ずぶぬれになっていました。この時も、哀れな鳴き声を聴いて、庭へ降りて行き、助け出してやりました。
度重なる救出のおかげか、モモは私にとてもなつきました。私も、可愛くてたまらず、外出から帰ってくると、玄関先に荷物を置いて、すぐ庭にまわりました。庭との境目の枝折戸を開けたとたん、庭の向こうのはしのいつもの居場所から、走って来て、私に飛びつき、顔や手などを、ぺろぺろなめまわします。私は、モモの前足を取ってダンスをするように飛び回りました。人が見ていたら、まるで、久しぶりに逢った恋人同士のようだと思ったかもしれません。
歳月は飛ぶように過ぎて行き、やがて、モモは、すっかり落ち着いた成犬となりました。、そして、不治の病を得ました。
ある日、帰宅しますと、家の玄関の扉の前に、モモが、じっと立っています。そばに義妹がいて「モモが動こうとしないの」といいます。黙々と、扉が開くのを待っている様子です。モモは、私の家に入りたいのでしょう。
そこで、「モモちゃん、お入り」と、ドアを開けて、中に入れてやりました。いつも、モモに与えているおやつのささみチップスをやってから、隣に帰すつもりでした。
ささみチップスのあるところまで行って、ひょいと後ろを振り向くと、モモが上がって、私の後ろに着いて来ています。床の上には上がらないようにしつけられているはずですので、ちょっと驚きましたが「モモちゃんは、おばちゃまのお家の中が観たかったのね」といって、なでなでしてやりました。それから、おやつをあげたあと、「お帰り」というのですが、なかなか動こうとしません。やっとなだめすかして、隣に帰らせました。
これは考えすぎかもしれませんが、モモは、自分の死が近いことを、生き物の勘で悟り、子供のころを思い出して“お助けおばさん”なら救ってくれるのでは、と考えたのではないでしょうか。
ごめんね、モモ、助けてあげられなくて・・・
私は、戦いを終え、静かに眠るモモに話しかけました。「モモちゃんは、きっと天国に行けるよ。おじいちゃんとおばあちゃんが待っているよ」と。