差出人の名前のない年賀状

差出人の名前も住所もないその年賀状は、数年前から来るようになった。
なんとなく見覚えのある筆跡だ。
最初は、書き忘れだろうと思った。
よくあることだから。
でも、何度も来るようになると、おかしいと思い始めた。
思い当たることがある。
仙台にいる(はずの)学生時代の友人だ。
卒業するとすぐ、仙台の実家に帰り、しばらく高校の講師をしたあと、お見合い結婚をした。
彼女の結婚が決まったころ、遊びに行って、お父様とお母様に歓待していただいた。
式に参列した。
その後も手紙のやりとりは続いた。
だが、数年後、ばったりと音信が絶えた。
同窓会名簿が出版されたので、彼女の記載を見ると、住所は空欄で、電話番号だけ記されていた。
何度も電話したが、だれも出ない。
その後も年賀状を出し続けたが、彼女からは来ない。
しばらくの間、自営業のご主人の事務所から届いたこともある。
そして、いつからか、名前も住所も書いてない年賀状が届くようになった。
ご主人の事務所に手紙を出してみようかとも考えたのだが、なんとなく、彼女は連絡してほしくないのでは?と思って、それはしないでいる。
これは、私、生きてますよ、というメッセージではないのか。
お父様は地元の有力者だったし、彼女の娘時代は、幸せだったと思う。
おっとりした彼女の性格がしのばれるのびやかな筆跡で、不幸な状況にあるとは考えにくいのだが・・・
年齢を重ねると、みないろいろなことがある。
私自身、それなりに波乱のある半生だった。
ちなみに、あの震災のあとも、ちゃんと年賀状は届いている。