熟年のマスター&ママたち 「その時」が訪れるまで

 私がよく行くお店が二軒ある。
☆はじめは、私の地元の喫茶店で、経営者は、熟年のご夫婦だ。このあたりには珍しく朝8時から開店している。日曜の早朝、散歩の途中立ち寄ったのがご縁で、時々行くようになった。静かな自分の家で仕事をするよりも、このお店で、ほどほどの人のざわめきを聞きながら仕事する方が、はかどることが多い。地元の湧水で入れた珈琲が売り物で、ビーフカレーやきのこスパゲティー、それに夏はかき氷もおいしい。マスターとママは、34年間このお店を切り回してきた。二人とも眼が輝いていて、言うことがまっすぐだ。それに、丸顔のママさんの笑顔がいい、見るとほっとする。このお店では、時々、ライブを行っている。昨年、マスターからの依頼で、私の朗読教室の発表会をここで行った。このお店は繁盛しているので、ライブは夜行われる。私のお客様たちのうち、ご高齢の方の中には、夜は来られないとおっしゃる方がある。気に入っているお店だが、その点だけは残念だ。このお店ではこれまでにも、若手の音楽家や落語家たちのいろいろなライブを行ってきた。朗読会のあと、仲間の芸人を何人か紹介した。そのうちの尺八演奏家とミュージカル・ソー(のこぎりバイオリン)の演奏家の二人が、それぞれ、この春、ここでコンサートを行うことになった。どんなコンサートになるか楽しみだ。
(喫茶店カフェ・ド・ペリーヌ JR中央線 武蔵小金井駅より徒歩4分)
☆次は、JR中央線のとある駅に近いピアノ・パブ。経営者は、やはり熟年のご夫婦だ。優しくてよく気の付くマスター。生真面目で、裏表のないママ。マスターはスリムで、ママはふくよか。いいコンビだ。マスターもママもミュージシャンで、パワフルな歌を歌うのだが、ここは、マスターのピアノに合わせてお客様が歌えるのが呼び物になっている。演歌から、ジャズ、シャンソン、ラテン、クラシックと、なんでも歌える。私は、歌の代わりに朗読させてもらっている。もう長年通っているので、いい勉強になった。これからも続けて通うつもりだ。マスター、ママ、それに歌手の方たちとのおしゃべりも楽しい。私にとって、いいストレス解消の場だ。マスターは昼間お店で歌の教室を開いている。生徒さんは大勢いるらしい。年に一度、教室の生徒さんたちの発表会が近くの劇場で開かれる。また、お店のお客様たちの歌の会も、年に一度、同じ劇場で行われる。どちらの時も、定員が110名の劇場が満員になる。マスターがピアノ伴奏をし、ママが司会をする。最後に二人で歌い踊る。30年間、一緒に苦労をしてきた二人の呼吸はぴったりだ。
(ピアノパブ・マイウェイ JR中央線 地下鉄東西線 中野駅より徒歩4分)
 上記の二つのお店は、私の生活の支えになっている。私は熟年だ、これからどんどん齢をとっていく。お店のマスターやママたちも、もちろん、齢をとっていく。将来、必ず訪れるだろう、マスターやママたちの定年、つまりお店の閉店の時・・・「その時」が訪れるのが一日でも遅いようにと願う私である。