夏の華  かき氷

 寺田寅彦の弟子で物理学者・随筆家の中谷(なかや)宇吉郎の著書に「冬の華」という随筆集がある。「冬の華」とは、雪の結晶のことらしい。中谷は雪の結晶を研究し、人口雪の制作に世界で初めて成功した人だそうだ。
 では、「夏の華」といえば、何だろう?花火だとおっしゃる方が多いと思う。夏の夜空に華々しく開く大輪の花・・・なるほど。
 そして、花火と並ぶ「夏の華」は、数々あるだろうが、少なくとも一つに“かき氷”を挙げてもいいのではないか?ファンは多いと思う。
 私もかき氷が大好きだ。暑くなってきて、喫茶店の店頭に“氷”と朱書してある旗がひらひらと風に揺れ始めると、心が躍る。ここのところ酷暑が続くので、夏が来るのはいやだが“かき氷”との再会は、とてもうれしい。
 なじみの喫茶店で初物のかき氷を注文する。イチゴ、メロン、みぞれ、ミルク、宇治金時、レモン、イチゴミルクなどなど。 お店の壁に貼りだしてあるメニューを見ながら、どれにしようかな、と迷う。
 運ばれてきた氷は、ガラスの小鉢にうず高く盛り上がっている。子供のころ、西日本に住んでいた時食べたかき氷は、シロップが氷の下(器の底)に沈めてあり、氷のてっぺんにもシロップがかけてあった。その後、東京に出てきた時に対面したかき氷は、シロップが、氷の下に沈めてあるだけで、氷のてっぺんにはかけてなかったように思う。これは、なんとなく寂しかった。今は、東京でも、西日本と同じく、氷の上にも下にもシロップがあるという店が多くなったようだ。
 「処女峰アンナプルナ」という題の本があったと思うが、その年最初に食べるかき氷の山は、私にとって、「アンナプルナ」と言えるかもしれない。氷の山を崩さないよう、気を配りながら、スプーンを入れていく。食べ進むと、サクッと音がして、氷がシロップの中に落ちる。シロップがかかっていないザラザラした氷と、シロップに溶けている柔らかい氷。それを混ぜながら口に運ぶ。口に含むと、心地よい甘さと冷たさが、全身に広がって行き、外の暑さなど忘れてしまう。かき氷さん、今年もよろしくね!